駐在員へらじかのアメリカ生活、子育て、マイルの記録

妻と2人の子供と2015-2018年にアメリカ駐在していた30代前半サラリーマンの記録。 物価が高い先進国での金銭事情、子育てと英語教育、旅行費節約のため2年で80万マイル獲得したノウハウなどを在米の皆さんに活用してもらえれば幸い。

アメリカのビットコイン等仮想通貨の税金は?年末調整2017の参考として解説

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駐在員へらじか (@Moose_Fukui) です。

4ヶ月間で約100万円の含み益が出たため2017年の年末調整に向けてアメリカの仮想通貨税務について調べ日本語でまとめてみました。IRS公式見解をベースに、1年間を区切りとした短期・長期保有それぞれの税率についても調べました。
以下は税理士ではない個人の調査に基づいたものなので、実際の確定申告実施の際には最新の情報取得に努めるとともに税理士へ相談されることをお勧めします。

 

 

記事作成の背景は、含み益が100万円の大台を超えてしまったから

へらじかが仮想通貨を始めたのは4ヶ月前、2017年8月のこと。ブロックチェーンの未来と仮想通貨のリスク双方を考慮して少額からはじめ、現在までに5,700ドルを投資しました。
当時から税金についての漠然とした疑問はありましたが、収益が出る前から税金の心配をしても仕方ない、払うべきものはあとでしっかり払うだけだと考え、スピード優先で参入。
そして先日、含み益がついに10,000ドルを突破しました。円換算でも110万円以上と、どう見ても高額に。税金対策に真剣にならざるを得ませんでした。
というか、ストレートに言うと「年内にこんなに高騰するなんて思わなかった」というのが本音。よい意味で期待を裏切られたので、ホールドし続けるにも、利益確定をするにも必要となる知識習得の腹を決めました。

 

米国唯一の公式見解は2014年のIRS発表のみ

日本では投資熱の高まりを受けて先日、2017年の情報として国税庁が見解を出しましたが、アメリカではそれより早く2014年にIRS (アメリカ合衆国内国歳入庁) がビットコイン等のVertual Currencyについて税務の概要を示しています。

記事の名前は「IRS Virtual Currency Guidance | Internal Revenue Service」といい、詳細は「Notice 2014-21」という書面にまとめられWebで公開中。仮想通貨税務の基本的なガイダンスに加えて16個FAQを含んだ6ページのPDFなので、基本を押さえるにはうってつけ。

それすら読む時間が無いという方へ、要点のみ3点でまとめます。

・仮想通貨の売買・交換や、実世界におけるモノやサービスの購入に仮想通貨を使用した場合は課税対象である。(Section3. Scopeより)

・税務において仮想通貨は"Property"の扱いとする。現行法においては通貨の一部としては扱わない。(Section 4. FAQ, Q-1及びQ-2より)

・税の計算には、仮想通貨を入手した時点のUSドルベースでの市場価値を用いる。(Section 4. FAQ Q-3及びQ-4より)

”Propertyとして扱う”ということはすなわち、株式や債券と同等の扱いということ。

個人的にはガイダンスの前文としてSECTION 2.に書いてある内容が、新しい時代が来た感覚があって好きです。IRSとして取るべき税金はしっかり取る一方で、仮想通貨自体の将来性を認めている様子が読み取れます。

 

ホールドの人は税金無し、それ以外の人は対応が必要

IRS見解をまとめると、含み益に対する課税はありません。2017年にビットコイン等仮想通貨の購入だけを行い、売却は一切行っていない人 (いわゆるガチホ勢) は非課税となります。
モノの販売やサービスの対価としてコインを得た人、マイニングをした人、給与として得た人、買い物に使用した人、法定通貨に交換した人はすべて、その取引が発生した時点のレートで収益として計算・報告する義務が生じます。

以降、IRSガイダンスを元に作成されたInvestopediaの「Bitcoin Tax Guide: An Introduction」という記事を参考にシミュレーション。

 

長期保有者には税制優遇

税制が株式と同様の扱いだとすると、アメリカでは仮想通貨の保有期間によって税率が異なることになります。

また、給与所得を含めた総所得金額に応じた累進課税制度としてタックスブラケットという所得区分が存在します。

さらにその所得区分には独身か既婚かというステータスも関係するため、少々複雑です。

最後に輪をかけて、上記国税に加えて州税・地方税も存在。計4つのファクターが存在するので、どんどん難解になってきます。

ただシンプルに考えると、仮想通貨ホルダーの視点でコントロール可能なのはコインの保有期間のみ。この観点では、資産保有期間1年間を境に短期・長期という区別がされるだけです。

1年以上保有された仮想通貨が売却・使用され値上がりによる収益を得た場合には長期キャピタルゲイン税率として0/15/20%のいずれかが、1年未満の短期保有時には10%から最大39.8%の税率が、それぞれ適用されることになります。

つまり、アメリカでは仮想通貨を1年以上保有する人を優遇する税制となっています。

(なお売買の差損については最大40年間、毎年3,000ドルまでキャピタルロスとして計上できますが、2017年の市場で差損を出している人も少ないかと思うので割愛します)

総所得額と税率のテーブルについては以下表を「Tax Brackets in 2017 - Tax Foundation」から参照しています。

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タックスブラケット(所得区分)のテーブル。

 

シミュレーションの結果、短期と長期では1,000ドルの差が出る

へらじかの年収を元にタックスブラケットは25%区分、既婚でJointFilling、売買の差益が10,000ドルという条件で簡単に試算すると、短期・長期の場合に仮想通貨のキャピタルゲインにかかる税金額はそれぞれ以下のようになるかと思います。(州税・地方税は考慮せず)

短期:2,500ドル (上で引用した表の25%課税に該当)

長期:1,500ドル (長期キャピタルゲインとして15%課税)

この試算結果から、長期保有のほうが1,000ドル分の節税になるということが分かりました。

少々厄介なのは駐在員という立場で、会社の税理士を通じて年末調整を行っていること。自身で行う現地採用の社員とは対応が異なります。

毎年会社側が多めに税額を見積って月々の給与から控除し、年末調整で還付するスタイルを取っているため、個人としての事実上非課税となる金額枠については未調査です。

 

ビットコインキャッシュ(BCH)等のフォークコインに関する税制は未定

IRSのガイダンス "Notice 2014-21"では、ハードフォークコインの扱いが定められていません
例えば8月のビットコインキャッシュ。これは株における配当金や株式分割とは性質が異なり、無から生まれた新しい価値なので対応する現行法が無いのが現状。

大手メディアのFortuneの記事 ”Bitcoin Cash: Cryptocurrency on Collision Course With IRS | Fortune” では仮想通貨のエキスパートとしてElizabeth Crouseの言葉を以下のように引用しています。

”IRSの観点では、何であろうと支払いを行わずに得たモノはIncomeである。ビットコインキャッシュが口座に付与された時点でそれは課税対象の出来事となる。問題は、その価値がいくらかということだ。”

さらに ”その価値” については支払いや法定通貨への交換を行った際の価値ではなく付与時点、8月のレートであろうと続けます。
ただしこの章の結びとしてはIRSの最新見解を待とうと書かれており、結論は出ていません。2014年に続く、公式見解が待たれます。

 

2015年にアメリカでビットコインの収支報告を行ったのは802人だけ

同Fortuneの記事によると、2015年のTax Return (年末調整)でビットコインの収支報告を行ったのはたったの802名とのこと。
これに関連し、現在IRSは米国最大手の仮想通貨取引所であるCoinbaseに対して2013-2015年のユーザー情報と取引履歴の開示を請求し、現在両者は連邦裁判所で争っています。
2017/11/9付けでCoinbase側はオフィシャルブログ中の「Coinbase IRS Update – The Coinbase Blog」という記事で、顧客のプライバシーを守るため戦っているとの旨をアップデートしています。

Coinbase appeared in federal court today to continue the fight for our customers’ privacy rights. Nearly one year ago, the IRS initiated proceedings to obtain copies of essentially all our U.S. customers’ records for the three-year period 2013–2015. (後略)

Coinbase側の発表では強気の内容になっていますが、一方でCNNはおそらくCoinbase側が負ける=ユーザーとその取引情報はIRSへ開示されるとの見方を「Coinbase Likely to Lose Battle to Protect Users from IRS Bitcoin Tax Probe」という記事で示しています。

個人的には2013-2015年に取引はしていなかったので2017年の税務には関わらないのですが、結果によっては仮想通貨のマーケット価格に影響を与えそうなことを懸念しています。

 

まとめと調査の振り返り

今回の調査の結論は短期保有なら25%、長期なら15%の税率が適用され1,000ドルの差が出るというシンプルなものでした。(自分のケース)

ただ、この結論に至るまでには多数の情報元を参照しています。

米国の規制やルールを調べる際は、サラリーマンとしての本業では英語原文を重要視します。訳文だと元の意味を失っている場合もあるため、基本方針として上流の情報のほうがより正しいものとして扱っています。
ただ、自分が明るくない分野について調べる際には日本語の訳文やまとめ記事を先に参照して「勘どころ」をつかんでから英語の原文を読むスタイル。その方が理解が早いので2言語使えるメリットを活かしています。
今回も日本語サイトで概要をインプットしてから英文で各論を掘り進めました。日本語解説が誰かの助けになり、さらに詳細な調査へとつながればうれしいです。

冒頭に記したように自分自身は税理士ではないため、この記事はあくまで個人の調査結果です。誤りや、IRSからの情報の更新があった場合にはその旨をご指摘いただけると幸いです。

繰り返しますが、実際の納税にあたっては可能な限りご自身で英語原文を読まれ、税理士に相談されることをお勧めします。

 

次の記事は余剰資産で仮想通貨投資を始めようと考えている方向け。へらじかが使っているアメリカ最大手の取引所Coinbaseの口座開設、使い方、入金方法の紹介です。

 

へらじかの仮想通貨運用成績については次の記事へ。FXも草コインも使わず、現物投資のみ4ヶ月で200%超という異常なマーケットです。

 


参考にしたサイト

IRSによる2014年の公式ガイダンス。これを以って、アメリカでは仮想通貨の税務は"Property"、すなわち株や債権と同様のものとして扱われることになりました。

 

25歳海外駐在員さんのブログ記事。東南アジアにお住まいですがUSCPAを学ばれているため、アメリカのビットコイン税務について分かりやすく紹介されています。日本語なので勘どころを掴むにはもってこい。

 

米国の投資家が参考にする大手サイト、Investopedia。IRS発表で仮想通貨は税務上「通貨」ではなく株や債権と並列の「資産」であると定義されたため、いまや「投資対象」であるという考え方を持っているサイトです。

 

米大手メディアFortuneがまとめたAir-Droppedコイン(いわゆるフォークコイン)の税務についての記事。結論はIRSの見解待ち。

 

米国最大手の取引所CoinbaseとIRSの、ユーザー情報開示に関する係争について。CNNはおそらくCoinbase側が負ける=ユーザーとその取引情報はIRSへ開示されると見ています。


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