駐在員へらじかのアメリカ生活、子育て、マイルと仮想通貨

妻と2人の子供とアメリカ駐在中の30代サラリーマン。 物価が高い先進国での金銭事情、子育てと英語教育、旅行費節約のため2年で80万マイル獲得したノウハウ、仮想通貨とETFでの資産運用について、惜しげもなく赤裸々に。

【現役駐在員が語る】恐怖、アメフトシーズン中の同僚との雑談2017

アメリカ北東部の某州に今年も秋が来た。9月に入ってまだ1週間だというのに最高気温はすでに18℃を下回り、今朝からシャツの上に薄手のニットを着ている。

夏の終わりは急速に訪れて、哀愁を感じたり惜しむ暇も無く、山からは容赦なく冷たい風が吹き始める。だがこの時期につらいのは寒さでも、暑い季節が終わってしまったことへの寂しさでも無い。フットボール(アメフト)のシーズンが始まることだ。

 

 

アメリカでは昨日NFLが開幕した。NFLとは言わずと知れたプロのアメフトリーグであり、野球、バスケ、ホッケーと並ぶ4大スポーツの中でも特に一番人気だ。9月から始まるこのお祭りでは、全米32のチームが数ヶ月間の熱戦を繰り広げる。

へらじかの同僚たちも言わずもがな、贔屓のチームのユニフォームやキャップを身につけて沸き立っている。朝の挨拶、カフェテリアでの会話、なんなら会議中にだってフットボールの話題で持ちきりだ。

そして僕、へらじかはこれが怖い。これまでのいくつかのエントリーで英語学習について偉そうに触れてきたが、雑談は脈絡が無かったり論理的ではない(当たり前)なので口語的な表現やジョークに付いていけないことはよくある。それは慣れっこだし、いちいち気にしない。

ただそうした難解な雑談ネタの中でも群をぬいて頂点に立つのがフットボールなのだ。

何しろ長い。話し出すと止まらない。そして熱い。大人数がわいわいと興奮気味に話す中、一人取り残されるとたまったものではない。この感覚は、日本で言うところのプロ野球が好きな年配同士の会話と、それに付いていけなくなる若い人の様子を想像していただくと、とてもしっくり来る。

 

決してアメフトが嫌いなわけではない。むしろ好きな部類に入ると思う。

自分がラグビーをやっていた過去もあるので、コンタクトスポーツは好きだし、見ている分には興奮する。地元チームは弱いが、応援する気持ちにもなる。恐れているのは、あくまでゲーム翌日の雑談だ。同僚たちの話が盛り上げるほどに自分は話題に付いていけなくなるので、端的に言って怖いのだ。取り残されるのが嫌なのだ。少なくとも自分の周りでは、体感的に70%以上の同僚がフットボールに熱を上げているので残り30%に救いを求めることになる。

へらじかだって、昨日のゲームでどのチームが勝ったかくらいは分かる。ハイライトシーンも。超有名なプレイヤーくらいも、なんとなくわかる。

それが、今年入団した新人の話あたりから付いていくのが怪しくなり、昨シーズンの話や過去のスタープレイヤーの名前が出てきたあたりでトークもどんどん白熱してくるのだが、ここでへらじかはお手上げ。完全に沈黙を強いられる。

 

そんなとき、気の利く同僚に限って、Heyへらじか、お前はどう思う?とパスをくれる。

試合をコントロールするクォーターバックよろしく、お前が走る番だと腹にボールを抱えさせてくれるわけだ。

いっそ放っておいてくれよと思わないでもないが、アメリカ人は基本的に優しいのだ。そして同様に、沈黙を良しとしないのだ。会議だろうが雑談だろうが、シチュエーションがなんであれ黙っている人がいたら、気を利かせて話題を振ってくれるのがアメリカ人なのだ。

それならこちらはランニングバックよろしく、せっかく受け取ったボールを持ってディフェンスラインをぶち抜いて前進するのが任務だ。

すぐさまいい返答ができれば会話という名のプレーは途切れないが、反対にここで答えに窮することはボールを持ったままフィールドで立ち尽くすことに等しい。足を止めればタックルの格好の餌食になり、たちまちボールを奪われる。判断は一瞬だ。気は抜けない。

 

駐在1年目、ルーキープレイヤーのへらじかはひどいものだった。そもそもTOEICの勉強はしたが雑談できるほどの会話力も無かったので、せっかくの会話のチャンスを渡されても、しどろもどろ。おしゃべり好きのアメリカ人はテンポの悪い人をあまり待てない。ボールはすぐさま奪われてしまい、会話というボールは次にはつながらなかった。

 

駐在2年目は会話には慣れたが、いかんせんフットボールの引き出しが無い。

「フットボールは良く分からないけど僕はラグビーが好きだよ!」とか、どう考えてもディフェンスラインを突破できないであろう斜め上の回答をしてしまい、「Interesting.」なんて返り討ちにあっていた。

少々補足をすると、Interesting = 興味深い、が直訳だが、会話中で語気弱めで使われると決して良い意味ではない。面白いね、というほんの少しのニュアンスも含むが、一語で使われる場合は基本的に会話を終わらせたい場面で出てくる。あっそう、ふーん、くらいの感覚がおそらく近い。

繰り返しになるが、アメリカ人は優しいのだ。露骨にお前の話はつまらないとは言わずに、面白いねというポジティブな単語を暗く言うことで会話をクローズするのだ。

Interestingが出てきた瞬間、へらじかの脳内ではディフェンスにバチコーンとタックルを食らってボールを奪われる自分が見えていたが、それでも沈黙よりはだいぶマシだったと思う。

 

そして今年、自分もアメリカで戦うのは3年目だ。同じ轍は踏まない。へらじか選手、勝負の2017年シーズン開幕だ。

 

午前11時、電話会議スタート。全米のセールスとの定期ミーティングだ。

各地方のセールスが案の定、昨日のゲームの話を始める。ここまでは想定どおりだ。

開幕試合のカードは確認済みだ。昨年優勝チームのことも聞いてくれ。へらじか、いつでもボールを受け取る準備はできている。

5分が経ち、10分が経ったが、まだパスが来ない。みんな開幕試合に興奮していて、へらじかに気を配る余裕が無いほどに白熱しているのだ。

 

早く、早くパスをくれ。

 

いや、違う。

 

仕事してくれ。

 

1時間の会議のうち10分も雑談してないで、各地の売上状況を聞かせてくれ。

 

そんな願いが通じたのか、11時12分から本題に突入。へらじかの2017年シーズン、開幕試合は出場機会無しだ。

と思いきや、遅れて参加した1人のセールスによって話題は180度転換し、またフットボールトークが始まった。

そしてふいに渡されるボール。へらじか、日本はどうなんだ?と。

三度言うが、アメリカ人は優しい。わざわざ話しやすいトピックを選んでくれるのだ。日本のことを聞かせてくれシリーズは、彼らにとっても異文化を知るチャンスになるしこちらも引き出しがあるので、そこそこ盛り上がる鉄板ネタなのだ。

これはチャンスだ。パスキャッチどころか、この瞬間へらじかはゲームをコントロールするクォーターバックだ。華麗なパスを披露して得点を決める番だ。

ロングパスを決めるためには正確な状況把握が必要なので、質問を確認する。日本の何だって?と。

同僚は言う。日本の有名なフットボール選手を教えてくれと。

 

しまった、知らん。

 

日本のアメフト選手なんて一人も知らん。

 

かと言って沈黙は厳禁だ。苦し紛れにへらじかは言った。

フットボールは日本では比較的マイナーなスポーツなんだ。有名な選手はいないよ。日本で人気があるのは野球とサッカーだよ。野球なら、イチローが超有名選手だよ、と。

 

「Interesting.」

 

バチコーン。

 

優しさという名の強烈なタックル。

  

倒れるへらじか。転がる、ボール。

 

イチローは以前とても盛り上がったネタだ。日米通算何安打してるんだ彼は、すごいよな、と別の同僚との会話で使えたので安心していたが、フットボールの話をしたい人たちにとっては意に介さなかったようだ。

そしてへらじかは、今年も残り30%の非フットボールファンの同僚に救いを求めるのだ。

 

しかし安心してはいけない。すぐに冬が来る。

冬が来るとNHL(ホッケー)が開幕してしまう。

この30%はホッケーファンなのだ。氷上の格闘技とも呼ばれるホッケー好きは下手をするとフットボールファン以上に熱く、興奮しやすく、話も長いのだ。

 

次回、【現役駐在員が語る】恐怖、ホッケーシーズン中の同僚との雑談

 

へらじか

「やさしい」って、どういうこと?

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